いのうえ

気まぐれに気になったことを拙く書いています。気が向いたらコメントしてくださ〜い!

36歳、フリーター、処女。

 アリストテレスは人間は社会的動物だと言っていた。が、彼の提言に該当することのできない人はいっぱいいる。

 コンビニ人間を読みました。基本的に本はよほど面白くないと買いたくないので、図書館で読んで済ましてしまうが、文庫版が出たら買おうかなぁと思ったくらい最近読んだものの中では好きな作品である。市営図書館は予約数が膨大できっと1年待っても借りられないだろうとのことで、学校の図書館で二ヶ月ほど待ちようやく借りることができた。

 語彙のストックがないので貧相な言葉でしか感想を表現できないのだが、こんな私の存在が許されたような気がした。私も主人公みたいな所があり、まあ簡潔に言ってしまえば、私自身自閉症スペクトラムの気があるので、そうだよな〜、そうだよな〜と思いながら読み進めていった。今の社会…というより、社会はずっと昔から不寛容だし、多様性を受け入れてはくれない。一言で言うと、いちいちうるせえ!と感じです。ムラに属すことのできない異質と称される人間は排除し、とことん見下す。日本は下方意識を持つ人が多い国なのだろうか。主人公が友人とその旦那たちとのバーベキューをするシーンでは、36歳になって結婚せず、定職も持たない彼女のことをせせら笑っていたが、実にリアルで、世の中にはこのような考え方持っている人が大多数なのでしょう。特に田舎の人間では人の(悪い)噂が大好物なので独身の人は格好の餌食になっていた。ラストは自分はコンビニでしか生きていけない動物だと気付き、希望があるわけではないのだが、この本は規範的な生き方のレールに雁字搦めになること無いじゃない、と思わせてくれる。主体者は困ることがあるかもしれないけれど、別に生涯未婚だって、処女だって、アルバイターだって他人のことなどどうでもいいではないか。

 主人公に共感できないと思ったのは、たとえ私が自閉症スペクトラムだとしても、体裁のために白羽さんを飼うことはできない点だ。彼もきっとアスペルガーあたりで、読んでいるだけでぶん殴りたくなるような人物だが、おそらく正論を言っても話が通じないタイプであり徒労でしかない。顔もブサイクとかそういう範疇に収まらず、どちゃくそ気持ち悪いと思われる。身体から異臭を放っていそうだし、口をひらけば口臭が瞬く間に広まっていくのだろう。ただ、あれだけ自分を客観視できず、頭のおかしい発言を繰り返していたのに、主人公の妹の前では綺麗な嘘をすらすらと吐けていたのはなんとなく腑に落ちないかった。彼のような人はそんな芸当できないと個人的には思う。また彼が、恵子のことを性的対象として思っていないことを幾度も語っていたが、相手からは対象内として認識されている前提がある。これは白羽に限ったことではない。構内で男子生徒が「あいつはブスだから無理だわー(笑)」みたいな会話をよくしているが、あなたの顔もひどく醜いし、あいつは自分とヤりたがっている前提なのがちゃんちゃらおかしい。人間は他者のことを見下さないと死んでしまう生き物なので仕方がないのだろう。

 

 高校時代、どう考えてもアスペルガーであろう子がいて、彼は学年中に知られていた。バカにされる格好の対象だった。いじめまではいかないけれど、私がそんなこと言われたりされたら学校来れなくなる、とくらいのレベルまでいじりという言葉で括っていいのか不明だけれどいじられていた。先生たちも気づかぬふりをしていた。受験のストレスをぶつけていた人もいたのかもしれない。私は遠巻きに傍観していたのだけれど、こういう生徒を普通の公立高校に投入していいのかずっと分からなかったし、私もアスペの当事者として言葉では言い表せないような圧迫感に襲われていた。彼が大学に行ったのかとか今はどうしているとか知っている人は多分誰もいない。友人も誰一人いなかったから。この本を読んで彼のことを熱烈に思い出した。

 発達障害を抱える人ってどうやって生きていけばいいのだろう。コミュ力至上主義の世の中でアスペなんかはコミュ障がごまんといて、そういう人は機械に代替されたしまうような職にしかありつけなくて、どんな人生を設計していくべきなのか。この本は、バッドエンドではなくて、生き方の多様性を認可してもらえるような明るさもあったけれど同時にどっと荷物を押し付けられたような気持ちにもなった。